肺気腫発症の新規機序:Cell adhesion molecule 1におけるshedding亢進の肺胞上皮細胞apoptosisへの関与

氏名岡田 守人 | オカダ モリヒト
所属原爆放射線医科学研究所
職階教授
キーワードトランスレーショナル研究
研究者総覧http://seeds.office.hiroshima-u.ac.jp/profile/ja.d8b881e35ab60ca2520e17560c007669.html

概要

研究内容
肺癌等での外科的切除肺の非癌部について組織学的に正常肺(n=10)と気腫肺(n=10)を分類し、気腫肺で肺胞上皮のアポトーシスが有意に高頻度であることをTUNEL法にて確認した。次いで、ウエスタン法にてCADM1発現を調べたところ、気腫肺で CADM1 CTF(C末端断片)の相対的産生増加、即ちCADM1のshedding亢進が認められた。
ヒト肺胞上皮NCI-H441細胞は通常培養下でCADM1を発現するが、CADM1 CTFは検出されない。この細胞を用いてPMA(ホルボールエステル)、トリプシンの薬剤処理を行うとウエスタン法にてCADM1 CTFの発現が認められ、sheddingの亢進が確認され、また、TUNEL法ではこのsheddingの亢進に伴いapoptosisの頻度が有意に上昇していた。さらにこの細胞に遺伝子導入にてCTFを発現させ、免疫蛍光法と細胞分画実験に供したところ、両実験は一致してCTFのミトコンドリア局在を示唆した。これはトリプシン等の薬剤処理にてCADM1のsheddingを誘導した場合にも同様の結果が得られた。次に遺伝子導入細胞を用いて、JC-1蛍光プローブによるミトコンドリア外膜電位測定では、CTFによる有意な膜電位低下が検出され、またTUNEL法ではアポトーシスの頻度が有意に上昇していた。追加で施行したヒト気腫肺検体における免疫染色では、肺胞上皮で細胞内にミトコンドリアと共局在するシグナルを検出した。

研究の背景について
肺気腫は肺胞壁破壊により細気管支から末梢の気腔が異常拡張しており、形態的に非常にユニークな像を示す。世界の死因第4位であるが、根本的治療法や予防法は不十分なのが現状である。その病因の古典的機序として、①オキシダントの肺胞上皮細胞膜やDNAへの直接的作用 ②肺胞壁プロテアーゼ活性の相対的、絶対的上昇 が重要と考えられている。プロテアーゼ活性上昇は、肺胞上皮細胞アポトーシスを病的に進行させ、結果さらに蛋白分解が加速して肺胞壁破壊に至るとされるが、プロテアーゼ活性亢進とアポトーシス進行の間の分子機序は不明な点が多い。
Cell adhesion molecule 1 (CADM1) はimmunoglobulin superfamilyに属する肺上皮細胞接着分子であり、上皮性保持に必須と考えられている。CADM1は細胞外領域でproteaseにより切断(shedding)を受ける。本研究では肺気腫におけるCADM1 sheddingの実態を明らかにし、肺気腫発症の一因となるかを検証した。

研究成果について
肺気腫に特徴的な2大所見、protease優位と肺胞上皮apoptosisとを結び付ける分子機構として肺胞上皮におけるCADM1のshedding亢進を見出し、その機能分子としてCADM1 CTFを同定した。

産業界へのアピール

本研究は喫煙が発症に大きく寄与するCOPDの最も代表的な肺気腫に関する内容であり、新規治療法の開発が望まれる中でその新規機序を提唱した非常に有望な内容といえる。

関連情報

Thorax. 2014;69(3):223-231.

共同研究者
見前隆洋、宮田義浩、三村剛史