セマフォリン3A遺伝子変異と関連する特発性心室細動発症の分子病態メカニズムの解明

keywords.jpgセマフォリン3A,特発性心室細動 

中野 由紀子 

YUKIKO NAKANO

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研究概要

研究の背景

心室細動は心臓突然死の重要な要因の一つであり、臨床的に交感神経支配の異常が心室細動の発症に関与していることが知られている。心臓の交感神経支配は神経反発因子と神経誘引因子のバランスで決定されている。セマフォリン3A(SEMA3A)は分泌蛋白であるが、典型的な神経反発因子の一つであり、成長円錐に作用し、正常な神経支配を誘導している。近年、SEMA3A が心臓において心内膜心外膜の交感神経分布を決定していることが明らかになり、SEMA3A 欠損およびSEMA3A 過剰発現マウスは心室細動を起こし、突然死することが報告された(図1)。

研究内容

特発性心室細動は心臓突然死の重要な原因であり、社会に大きな損失をもたらしている病態であるにもかかわらず、イオンチャネル病など一部を除けば、その分子レベルでの発症機構はほとんど明らかにされていない。セマフォリン3A(SEMA3A)は、心内膜・心外膜への交感神経分布の抑制因子である。我々はSEMA3A遺伝子と特発性心室細動の関係について検討した。

成果

日本の様々な地域の特発性心室細動症例83 例と健常人2958 人においてSEMA3A遺伝子の検索を行い、特発性心室細動症例ではSEMA3A遺伝子SNP I334V(rs138694505A>G)の保因率が有意に高いことを報告し、SEMA3A遺伝子SNP が特発性心室細動の予測因子となることを明らかにした(リスクアレル15.7% vs 5.6%, P=0.0004, OR 3.08, 95%CI 1.67–5.7) (NakanoYet al. PLOS Genetics 2013)。SEMA3A遺伝子I334V を有する症例では、右心室心内膜生検組織で、通常は心外膜側にしか存在しないはずの心臓交感神経が心内膜側まで延長し交感神経分布の異常をきたしていた(図2)。In vitro の実験においても、SEMA3A遺伝子I334V を発現させたベクターをマウス交感神経節と共培養すると、I334V を有さない正常のもの(WT)よりも神経伸長の抑制作用が弱くなっていることを明らかにした(図3)。この様な結果から、ヒト心臓において、SEMA3A遺伝子I334V により、心臓の神経支配の変容が起こり特発性心室細動の発症に関与していることを推測した。

実用化に向けて(想定業界・用途、課題、企業への期待など)

今後、これまで行ってきた研究をさらに発展させ、SEMA3AのI344V 保因例の中での発症規定因子の解明、SEMA3AのI344V が心臓の交感神経支配に与える影響および心室細動を発症させる機序を分子生物学的な手法を用いて解明する。そこで得られた知見に基づき、SEMA3A の機能異常に関連する致死的不整脈の発生を抑制するための新規創薬などを行い、保因例内でハイリスク群を選別し、医学的介入を行う方法を開発することを目標とする。

本研究の特徴・優位性

特発性心室細動は心臓突然死の大きな原因であるが、イオンチャネル病など一部を除けば、その分子レベルでの発症機構はほとんど明らかにされていない。また検診や受診時の心電図などであらかじめハイリスク症例を選別することも困難である。我々はSEMA3Aの一塩基多型(SNP)I344V の保因が特発性心室細動発症の予測因子となることを世界で初めて明らかにした。ハイリスク症例の選別、突然死予防に向けての医療介入という観点から大変意義深いと考える。

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Nakano Y, Chayama K , Ochi H, Toshisige M , Hayashida Y, Miki D, Nelson CH, Suzuki H ,Tokuyama T, Oda N, Suenari K,Uchimura-Makita Y, Kajihara K, Sairaku A, Motoda C, Fujiwara, M, Watanabe Y, Yosh ida Y, Ohkubo K, Watanabe I, Nogami A, Hasegawa K, Watanabe H, Endo N, Aiba T, Shimizu W, Ono S, H orie M, Arihiro K, Tashiro S, Makita N,and Kihara Y. A nonsynonymous polymorphism in Semaphorin 3A as a risk factor for human unexplained cardiac arrest with documented ventricular fibrillation. P LoS Genet,9(4):e1003364,2013.

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