ラット嗅球の神経活動パターンを用いた人の匂い感覚予測

keywords.jpg嗅球,匂いマップ,嗅覚系,官能検査,ニューラルネット 

辻 敏夫 

TOSHIO TSUJI

division.jpg工学研究院 電気電子システム数理部門 サイバネティクス応用講座

position.jpg教授

共同研究者 : 曽 智,栗田 雄一

研究概要

研究の背景

飲料・食品産業などにおいて,匂いは商品の特徴や品質を決定づける要素であるため,匂いに対する人の感覚の定量評価は重要な課題である.一般的に匂いの評価には,人の嗅覚による官能検査が広く用いられているが,評価結果の信頼性と再現性を確保するためには訓練された検査官が多人数必要である.そこで,簡便に人の匂い感覚が予測できるアルゴリズムが開発されれば有用であると考えられる.本研究ではその第一歩として,匂い分子によって誘起された嗅覚系の神経活動から匂い感覚が予測できるかどうか比較実験を行った.

研究内容

従来研究より,げっ歯類と人間の匂い感覚の類似性が示唆されている.そこで本研究では,計測が困難な人間の嗅覚系の神経活動の代わりに,ラットの嗅球表面の糸球体層に現れる神経活動(図1)を用いた.そして,異なる匂いが誘起した神経活動パターン間の類似度を,1)神経活動パターン間の相関,2)共通して活性化している部位の割合,3)神経活動分布のヒストグラムの差という3種類の指標で定義し,官能検査実験より得られた人間が感じる匂い間の類似度と比較した.

成果

22種類の匂いについて,人間が感じる匂い間の類似度とラットの神経活動パターン間の類似度を比較した結果,各指標について中程度の相関が認められた.また,3種類の指標の間のユークリッド距離を神経活動パターン間の相違度として定義し,人間の感覚と比較した結果,中~高程度の相関(0.65 < r < 0.79)が認められた.さらに,3種類の指標を入力とし,機械学習的手法を用いて似ている匂いが予測できるかどうか検証した結果,33.3 ~92.9%の正答率が得られた.データセットによっては正答率が低くなってしまう場合があったが,上記の結果はラットの神経活動パターンから人間の感覚を予測できる可能性を示している.

実用化に向けて(想定業界・用途、課題、企業への期待など)

人の感覚をより正確に推定できる特徴量や濃度よる匂い感覚の違いが表現可能な特徴量について検討し,嗅覚系の内部構造に基づいたより詳細な官能検査モデルを構築する必要がある.

本研究の特徴・優位性

提案手法では嗅覚系の内部状態や構造に基づいて匂い感覚予測を行うため,一般的な多変量解析を用いる従来手法に比べて,より幅広い匂いに対応可能な汎化性に優れた感覚予測モデルを構築できる可能性がある.

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【論文】
Z. Soh, M. Saito, Y. Kurita, N. Takiguchi, H. Ohtake, and T. Tsuji, “A Comparison Between the Human Sense of Smell and Neural Activity in the Olfactory Bulb of Rats,” Chem. Senses, Nov. 2013.

【受賞】
平成24年10月 日本味と匂学会論文賞

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