転写因子Notch2とSix1の肺腺癌における悪性形質の関与

keywords.jpg癌,トランスレーショナル研究 

岡田 守人 

MORIHITO OKADA

division.jpg原爆放射線医科学研究所 腫瘍外科研究分野

position.jpg教授

共同研究者 : 見前隆洋、宮田義浩、三村剛史

研究概要

研究の背景

肺癌は日本をはじめとした先進国で悪性新生物による死因の上位であり,その克服に肺癌悪性化進展における機序解明は不可欠である。肺癌の中でも日本で最も多く認められる肺腺癌の約90%は混合亜型を伴った腺癌に分類される。2011年に提唱された肺腺癌分類で,この混合亜型を伴った腺癌の中でもlepidic growth(LG)(肺胞構造を置換するように腫瘍細胞が増殖)を主成分とする腺癌は,非浸潤癌Adenocarcinoma in situ, AIS (LG成分のみ),微小浸潤癌Minimally invasive adenocarcinoma, MIA (micro-invasion, MI成分を伴う),浸潤癌Lepidic predominant invasive adenocarcinoma, LPIA (overt invasion, OI成分を伴う)に分類される。上記の腺癌はAIS,MIA,LPIAと多段階に悪性化進展すると考えられおり,さらにMIAやLPIAでは非浸潤部であるLGと浸潤部であるMIあるいはOIを伴っている。

研究内容

手術検体より採取し作製したMIAの凍結標本をレーザーマイクロダイセクションに供し,LGとMIの癌細胞のみをそれぞれ採取した。各成分のtotal RNAを抽出,精製,RNA増幅後にDNAマイクロアレイに供し,LGとMIにおける遺伝子発現の網羅的比較解析を行った。浸潤部で非浸潤部よりも2倍以上,もしくは1/2以下の発現を認める遺伝子はそれぞれ2905個と2143個であった。浸潤部で高発現を認める遺伝子の中からSix1(種々の癌種での悪性化への関与が示唆されている転写因子)とその推定上流分子であるNotch2(その細胞内ドメイン[intracellular domain, ICD]が核内に移行して転写因子として機能)を選出した。上記解析で用いた症例を含めた11例において,浸潤部での両分子の高発現をRT-PCRにて確認した。また,MIA症例における免疫組織学的染色で,LGに比較してMIでNotch2とSix1両分子の高発現が認められ,この結果からAISからMIAへの悪性化進展におけるNotch2,Six1両分子の高発現の関与が予想された。
これを証明すべく,ヒト肺腺癌細胞株NCI-H441細胞にNotch2 ICDを形質移入する機能解析を行った。RT-PCRにてNotch2 ICDの形質移入後にSix1の発現上昇が認められた。さらにepithelial-mesenchymal transition(EMT)を促進する分子(Smad3, Smad4, vimentin)の発現上昇およびepithelial phenotypeの指標であるE-cadherinの発現低下が認められた。また,Notch2 ICDの形質移入により移入前と比較してNCI-H441細胞の核の腫大が認められた。以上からNotch2とSix1両分子は転写因子として協調的に作用してEMT誘導,促進や核異型の増強をきたし,肺腺癌細胞株の悪性化を進展させることが示唆された。
一方,LPIA 64症例においてNotch2とSix1の免疫組織学的染色を施行し,その発現と臨床病理学的所見や無再発生存期間との関係を解析した。LPIAはほとんどがN/N群(LGとOIで2分子がいずれも陰性),N/P群(LGでは2分子がいずれも陰性でOIではいずれも陽性),P/P群(LGとOIで2分子がいずれも陽性)のいずれかに分類され,それぞれ19,23,19例であった。N/P群やP/P群はN/N群と比較してリンパ管・胸膜侵襲が高度で,また,単変量および多変量解析で無再発生存率が有意に低い結果であった。Notch2とSix1がともに高発現することにより悪性化が進展したと考えられるN/P群は,それ以外の機序で悪性化進展をきたしたと考えられるN/N群と比較してより高悪性度の表現型を示すことが示唆された。

実用化に向けて(想定業界・用途、課題、企業への期待など)

転写因子Notch2とSix1両分子の高発現は早期肺腺癌において協調的に一群の遺伝子転写を活性化することにより,非浸潤癌から浸潤癌への悪性化進展をきたす可能性が示唆された。両分子の高発現は進行肺腺癌に悪性形質を付与することが考えられた。

本研究の特徴・優位性

MIAやLPIAは同一生体内で同一時期に多段階悪性化進展におけるそれぞれの時期を観察することが出来るモデルとして最適と考え,この非浸潤部と浸潤部の比較により悪性化進展を規定する分子の同定が可能と考えた。

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Clin Cancer Res 2012;18:945-955

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