毒ガス暴露による呼吸器疾患発症に関する影響

keywords.jpg吸入暴露, マスタードガス,肺癌,慢性気管支炎 

河野 修興 

NOBUOKI KOHNO

division.jpg医歯薬保健学研究院 応用生命科学部門 分子内科学講座

position.jpg教授

研究概要

研究の背景

広島県竹原市に所属する瀬戸内海の一小島,大久野島には1929年から1945年までの間,旧日本陸軍の毒ガス兵器が設置されていた。この工場では,びらん性猛毒ガスであるマスタードガス・ルイサイトをはじめ,くしゃみガス(ヂフェニールシアルソン),催眠ガス(クロールアセトフェノン)が製造されていた。それらのなかで,その製造量が最も多かったのは猛毒であるマスタードガスである。作業は防護服で覆って行われていたのであるが,不測の事故で毒ガスに接触したり,ごく微量の毒ガスを反復吸入していたようである。現在までに,毒ガス傷害者は様々な激しい後遺症に苦しむことが分かってきているが,毒ガスによる長期的な影響の全貌はいまだ十分には明らかにされていない。

研究内容

1952年より60年以上にわたって,私たちは広島県大久野島の毒ガス製造工場における毒ガス傷害者に対して,健康診断の実施および毒ガスに起因すると思われる健康被害に対する研究調査や医療活動を実践してきた。さらに,これらの活動を通じて毒ガス傷害の後遺症の実態解明にも貢献している。

成果

私たちは毒ガス傷害者は皮膚には急性障害としてびらん,水泡などを引き起こし,呼吸器系には慢性障害として慢性気管支炎や悪性腫瘍を引き起こすことを報告してきた。1968年に和田らは,毒ガス傷害者においては呼吸器系の悪性腫瘍の発症頻度が極めて高いことを報告してきた。一方で1970年に西本らは,長期にわたり繰り返して毒ガスを吸入することにより,慢性気管支炎と気道閉塞をきたすことを明らかにした。
最近私たちは代表的びらん性ガスであるイペリットの製造に従事した工員は,1年間の従事当たり,肺癌発症までの期間が2年から5年間早期化するという結果を明らかにした。毒ガスによる化学発癌の影響を疫学的に証明した世界発初の成果である。

実用化に向けて(想定業界・用途、課題、企業への期待など)

1980年から1988年にかけて起こったイラン・イラク戦争のみでなく、現在でも、日本を含む世界中のほとんどの国が毒ガス兵器を作製している。私たちの研究成果は,これらの化学兵器に暴露された多くの人々の健康管理に役立つであろうと考えている。

本研究の特徴・優位性

毒ガス傷害による長期的な影響を検討したデーターは本研究以外には世界中を探しても存在しない。

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(1) 2011年 大久野島毒ガス傷害研究会「第63回保健文化賞」受賞
(2) Doi M, Hattori N, Yokoyama A, Onari Y, Kanehara M, Masuda K, Tonda T, Ohtaki M, Kohno N. Effect of mustard gas exposure on incidence of lung cancer: A longitudinal study. Am J Epidemiol 2011 Mar 15;173(6):659-66. Epub 2011 Feb 18

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